イタリア・ルネサンスの絵画鑑賞 概説

イタリア・ルネサンスの絵画鑑賞 概説      2012-9   佐藤邦隆   

序 

イタリア中世の概略史

  • ローマは、キリスト教の聖人ペテロへの巡礼で再生を始める(7C~8C)。
  • ローマ教皇領が生まれ、更に教皇権が確立する。(9C)
  • イタリア北部でコムーネ(都市国家)が誕生する。 (10Cを境目)
  • 都市は十字軍の特需で富をます。 更に地中海を制して貿易で裕福になる。 (11C以降)
  • グエルフィ(教皇派)とギベリーニ(皇帝派)の対立。諸外国が介入して、長くイタリア半島は苦しむことになる。

都市国家の隆盛と君主

  • 14Cを境に都市国家が力をつけ、一人の君主に権力が集中(シニョーリア制)。
  • 個性的な君主(メデチ家など)が多く現れ、周辺制圧と同時に学芸の奨励に熱心に取り組む。
  • 綺羅星の如く天才が出現する。イタリア中が学芸にのめりこんでゆく。
  • ルネッサンスの絵画は、メデチ家が率いたフローレンスを中心に展開を始める。

フィレンツェの歴史について概略

トスカーナの中心地、13Cに毛織物産業で繁栄が本格的になる。羊の毛を輸入し製品化して売る。

  • 15Cからコジモ・ディ・メディチによる銀行業で繁栄が加速
  • ヨハネが守護聖人(洗礼堂はヨハネを祀る)
  • ヨハネは、キリストを「見よ!神の子羊を!」と呼んだ最初の人   子羊の紋章
  • 大聖堂(ドーモ)の建設13Cに開始し15Cに完成

ルネッサンスの定義と時代区分

ルネサンスの定義

  古代の写実をよみがえらせる、それはキリスト以前の文化(異教)の蘇りを計る。すなわち具体的には、キリスト教の聖人(キリスト、マリア、12使徒)の表現を、中世における天上人としての扱いから、現世人として描くように改革。

ルネサンスの歴史の時代区分

  • 1.プレ・ルネサンス 1290’s~1400前後 ジョットー *
  • 2.初期・ルネサンス 1420’s     マザッチョ
  • 3.盛期・ルネサンス 1470’s     レオナルド/ミケランジェロ/ラファエロ
  • 4.後期・ルネサンス 1520’s  (マネスリスムの時代) ~カラヴァッジョ  

絵画ではジョットーから始まりおよそカラヴァッジョまで、300年ほどの期間 17C以降はキリスト教美術が衰退し、聖書が主題ではなくなる。

ルネサンスの始まり

ブルネルスキーのイニシアティブで 空間の出し方とリアリティ表現の重視を強く主張   洗礼堂の北扉装飾 コンクール公募--動きの始まり

  •  フィレンツェ洗礼堂の青銅の扉装飾のコンクール
    • 1400年 毛織物組合 (ドーモの管理組合を担当)
    • テーマ:「イサクの犠牲」(浮き彫り)決着は共同制作を嫌ったブルネルスキーの譲歩で、ギベルディが制作。対して ブルネルスキーの新しい空間の出し方、すなわち、平面芸術に奥行きを持たせ、
    • 併せてリアリティの重視の表現がルネサンスの発展を強く牽引した
    •   ギベルディの構成の美しさ、
    •   ギベルディ、ブルネルスキーが 最終選考に残る。
  • キリストの十字架像(1410代) 二つの彫刻のインパクト  ブルネルスキー(サンタ・マリア・ノベッラ教会)作とドナテッロ(サンタ・クローチェ教会)作との同主題のキリストの肉体の表現に中世になかったリアリティが現れる  ブルネルスキーの指摘とドナテッロの奮起

ブルネルスキーからマザッチョへ (彫刻が早い)

  • マザッチョの特徴は、彼の空間表現とリアリティをマザッチョが絵画に応用
    •  人体表現が正確であること   モデルを使用したと思われる
    • 平面の中に奥行きを作る  (ブルネルスキーが考案してマザッチョが絵に応用)
    • 光の表現が豊かになっている
  • ピサの多翼祭壇画の中心の聖母子をジョットーの聖母子と比較 ジョットーが明暗法を用いて主体化しているのに対し、右上から差し込んでくる自然の光でリアリティを表現
  • 「三位一体」(サンタ・マリア・ノベッラ教会)と ブランカッチの礼拝堂  「貢ぎの銭」 (1420代) 国際ゴシック様式やジョットー様式の打破を狙う、

マザッチョの改革を継承してレオナルドへ繋いだ天才画家たち

  • フラ・アンジェリコ   1395~1455
  • パオロ・ウッチェロ   1397~1475
  • ドメニコ・ヴェネティアーノ  1410~1461
  • アンドレア・デル・カスターニョ 1419~1457
  • ピエロ・デッラ・フランチェスカ  1420c~1492
  • フィリッポ・リッピ  1406c~1469カスターニョとウッチェロフィリッポ・リッピ ピエロ・デッラ・フランチェスカ

ルネサンス美術の完成期

写実の充実

盛期ルネサンス特徴-1

  • 自然の正確な観察   空気遠近法による奥行き表現と同一画面に時間経過を表現
  • 心と心の通い合いを二次元の絵の中に人間たちとそれを取り巻く自然の状況をより豊かな感覚で表現するようになった

ルネサンス美術の完成期

身体の内部から正確に

盛期ルネサンス特徴-2

  • 二人の心のつながりから三人の間の交流へ、更に多数の間での人間同士の交流へと発展
  • 解剖解禁により 人間の肉体の研究  1470年代に大きな変化
  • 人体造形の写実性の充実筋肉に着目し躍動を表現

ルネサンス美術の完成期

古代の復興

盛期ルネサンス特徴ー3

  • 古代研究の進展プラトンアカデミーの成果 人間の普遍的倫理を絵解き   精神的な支柱として体系的に表現
  • キリスト教とギリシャ哲学の融合
  • 古代彫刻の相次ぐ発見
    • 1489年 アポロ、1506年 ラオコーンの発掘は大きな衝撃 ダイナミズムへ
  • 幻想世界と現実世界を同平面に表現

 

盛期ルネサンスの画家たち

ポッライオーロ兄妹レオナルド・ダ・ヴィンチラファエロ

ヴェロッキオとポッライウオーロ 兄弟 工房を統率、指導者として優れた

  • ヴェロッキオ1470年代に様式が変わるきっかけを作った
  • 主題に新しいものが現れる。
  • 解剖学的知識を彫刻や絵画に応用した。
  • 工房作では作品の帰属が難しくなってくる

ボッテチェッリ 1445~1510

    •  リアルに再現する要素と幻想的な美しさの表現とを併せ持つ様式に変化
    • 主題に古代神話真摯な姿勢と迷いと転換と

レオナルド・ダ・ヴィンチ  1452~1519

    • 心の交流と内面の表現
    • 安定した構図と混色による深みの表現
    • 自然の深い観察に基づく正確な表現
    • あらゆる分野の科学的考察

ケランジェロ 1475~1564

  • 彫刻家の感性を絵画へ
  • 強い意志でタブーを打破
  • 古代彫刻の発掘の指導・・・古典的な写実から反古典への牽引

ラファエロ  1483~1520

  • 師から学び師を超える優等生、しかも常にTOPの師を選んだ
  • 人間と自然の観察と写実
  • 人間の謙虚さの表現
  • ネオ・プラトニズムの図解
  • 幻想も人間の現実の内・・・幻想空間と現実空間との融合表現

独創性には乏しいが旨い画家たち

    • コジモ・ロッセリ 1439~1507
    • ロレンツォ・ディ・クレディ 1456~1537
    • ドメニコ・ギルランダイオ 1449~1494
    • ペルジーノ   1450~1523 単色使いの色彩画家 、ラファエロを見出した
    • ピエロ・ディ・コジモ

いずれも写実主義で同時代の人気を得た。

ヴェネツィアのルネッサンス

ヴェネツィア絵画は、フィレンツェに比べて遅れていた。サン・マルコ聖堂の影響のゆえに変化が出来なかった。フィレンツェとは一味違う様式に。色彩と(牧歌的)風景描写などに優れる。フィレンツェに遅れること約半世紀

    • 1452 マンテェーニャがベッリーニ家に婿養子
    • フィレンツェ及びフランドルの2つの地域が、最も進んだ絵画様式 、マンティーニャは、この両地域をミックスした様式を持った画家
    • [ヴェネツィア]にパドバの様式が伝わる年。
    • 1460年代になって、義弟ジョバンニへの影響が明らかになり始めている。 フランドルの影響など

ヴェネツィア ルネッサンスを牽引した画家たち

    • アンドレア・マンテェーニャ 1430~1506
    • ジョバンニ・ベッリーニ   1426~1510
    • ジョルジョーネ       1477~1510
    • テティアーノ        1490~1576
    • ティントレット       1518~1594

後期ルネッサンス

  •  公権力の拡大   パトロンが教会以外にも
  • テティアーノは、両ハプスブルグ家の宮廷画家へ-パトロンの要請-人間の本能、欲望を表現
  • 対抗宗教改革の教宣の要請 トレントの公会議  ティントレット対抗宗教改革の教宣を具現化した最も顕著な画家劇的/躍動的、華麗なる色彩で見るものの感情を刺激する。--観察や写実が軽視される--自然の観察ではなく先人の絵を手本にして技巧を駆使
  • ヴェネツィアは テティアーノからティントレットの時代へ

マニエリスムの様式へ

  • パルマ派   コレッジョ、パルミジャニーノ
  • ローマ派   アンニバレ・カラッチ 他

1590年になって写実への再回帰  カラヴァッジョ

ローマ

  • カラヴァッジョの主張と実践
    • 多方向からの光源と光と闇の効果、
    • 五感に訴えるカラヴァッジョの独創。

 

ルネッサンスの理論的支柱

現実世界は、理想世界の不完全な写しである現実からイディアに少しでも近づこうと欲求する  「イディア」は、[真理]、[善]、[美]の3要素から構成される。 啓示による真理・・・・・論理では説明しきれないがやはり真理であるもの。

ネオ・プラトン主義(ネオ・プラトニズム)プラトン主義と神学の融合を試みた。

ラファエロのヴァティカン「署名の間」の壁画 

(三科)[哲学] キケロ/ ソクラティス  プラトン (不明の男性)

(四科)[哲学]  詩人 ピタゴラス ユークリッド  プトレマイオス

図解であるが、簡単な図解に終わらない、ハーモニーを考えるところがすばらしい 。

ネオ・プラトニズム理論を支えた人たち

    • ジョバンニ・アルジロプロ   1410~92 ビザンツから来たギリシャ哲学者
    • L.B.アルベルティ    1404~72   古代の著作からインスピレーションを得よ!     「絵画論」
    • M.フィチーノ     1433~99  ネオ・プラトニズムの理論化    「プラトン神学」
    • P・D・ミランドーラ   1463~94   f80以降のネオ・プラトニズムを支えた理論

 

絵画以外の学芸

  • プラトン神学とアリストテレス哲学を融合、

文学/思想/宗教

  • ダンテ「神曲」
  • ペトラルカ「叙情詩集」
  • ボッカチオ「デカメロン」
  • マキャベリ「君主論」

建築/彫刻

  • ギベルティ「洗礼堂の扉装飾(浮き彫り)」、
  • ドナテッロ(彫刻)
  • ブルネルスキー「聖マリア大聖堂」、

科学/技術 (独)

  • コペルニクス(地動説)
  • グーテンベルク(活版印刷)、

ルネッサンス期以降

バロックへ

17世紀のスペイン/オランダ

  • エル・グレコ/ベラスケス
  • レンブラント/ルーベンス /フェルメール