ルネサンス絵画を見るポイント

ルネッサンス絵画を見る(観る、診る)ポイント            佐藤邦隆  

目的が違うと描き方が変わるし大きさも違う

絵画の使用目的とサイズ

 物語画について

  1. 主題を読み取る
  2. 技法を知る
  3. 様式を解釈する

 

  1. 主題について
  • 主題の出展を知り物語の内容を知る。
    •    旧約聖書・・モーセ五書(創世記、出エジプト記、レビ記、・・
    •    新約聖書・・キリスト伝、マリア伝、聖人伝・・
    •    黄金伝説・・13世紀にまとめられた。それまでの宣教で語られた物語の集大成
    •    ギリシャ神話、ローマ神話・・異教の神々は人間の多面性の反映(称賛ではないとした)
    •    同時代のエポック・・戦での勝利の記念、宗教的イベントの記念、信仰上の物語や事件
    •    キリスト教義の概念表現(パントクラトールのキリスト、オランスのマリア、三位一体など)
  • 図像学的に解釈を深める
    •    登場人物に与えられるポーズ、表情、配置や構成の意味を知る
    •    背景の役割を理解し、空間構成の表現や状況理解に供する描写を理解する
  • 人間の普遍的な価値観への画家の主張する趣旨を理解する
    •    人間の普遍性について共有されている価値観を知る
    •    宗教上の教宣の意図と世俗的なものとの葛藤の状況を考える
    •    社会背景や時代の要求する意味を知る

例えば、「キリスト伝」について

    • 受胎告知から幼児キリスト時代 (マリア伝から受胎告知へつながれる場合もある)

受胎告知、キリストの誕生、羊飼いの礼拝、マギの礼拝、エジプトへの逃避途上の休息、嬰児虐殺、

    • 聖母子と聖家族

聖母子像(子を慈しむ母親の姿は人間普遍のもの、思いの込められた像が多様  に存在)、聖家族(聖母子と聖ヨセフの三人を家族愛で表現)父としてのヨセフのこと、

    • 洗礼、布教(ペテロとアンドレアの誘い、マタイの召命等、マリアとマルタの家のキリスト)
    • 奇蹟(キリストの奇蹟には、公現/顕現、供食、治癒の区分がある:キリストの変容、ガリラヤ湖上を亘るキリスト、カナの婚礼、パンと魚の奇蹟、ラザロの蘇生、種々病気の治癒奇蹟、放蕩息子の帰還(心の癒し))
    • 受難伝  キリストのミッションではなく、パッションから描かれている

「エルサレム入城」からキリストの受難伝が始まる。キリストの宮清め、弟子の足を洗うキリスト、最後の晩餐、ゲッセマネの祈り、ユダの接吻、キリストの嘲弄、カヤパの前のキリスト、ピラトの前のキリスト、エッケ・オモ(この人を見よ!磔にせよ!) 、キリストの鞭打ち、十字架を担うキリスト、磔刑、十字架降下、ピエタ (哀悼) 、キリストの埋葬、

    • 復活と昇天

死を超える奇蹟でイエスは復活し使徒たちの前に再び姿を現すキリストの昇天 キリストの復活、ノリ・メ・タンゲレ(我に触れるな!) 、トマスの不信、エマオの晩餐、

    • 再臨と最後の審判

マリア伝、聖人伝について

マリアの誕生、アンナとマリア、マリアの神殿奉献、マリアの結婚、受胎告知、エリザベスの訪問、誕生十二使徒と洗礼者ヨハネ、聖人やマグダラのマリア、      ペテロ、パウロ、病気の守護神:聖セバスティヤヌス、聖ロックなど

技法について

モザイク技法  壁に塗られたまだ柔らかい漆喰に、砕いた天然石やガラス片をはめ込んで様々な画像を描き出す

(陶壁画)・・  天然石やガラス片の変わりに陶板を張ったもの

テンペラ技法  顔料に接着剤(油、卵、膠、カゼイン、アラビアゴムなど)を混ぜて、板や布のキャンバス地あるいは壁面に画像を描き、その接着力で定着させる (セッコ法:乾いた壁に絵の具)

(漆喰壁の上に絵の具で彩色する技法)・・短時間で経済的、しかし弱くもろい

フレスコ技法  まだ濡れている漆喰壁に水だけで溶いた顔料で画像を描く(フレスコはフレッシュの意)水と共に漆喰に染込んだ顔料は、漆喰が乾いて硬化するときにその結晶の中に閉じ込められる化学反応を応用したもの。水分の蒸発による乾燥とは本質的に異なる。 特徴は

  1. 漆喰が生渇きの状態は7~8時間程度と短い
  2. 顔料がアルカリ性に強くないといけない
  3. 乾燥後の色合いが違ってくるので予め心得が必要

短い時間の対処法としてジョルナータ法がある。壁の部分領域ごとの塗り継ぎ。

フレスコ画の制作プロセス

壁体→下塗り漆喰(アッリッチョ)→下絵(シノピア:赤褐色の顔料)→ジョルナータ→上塗り漆喰(イントーナコ)

粉うち法(スポールベロ法)、緑色下塗り(ヴェルダッチョ)

 

フレスコ画の300年

  1. イタリアで最初のフレスコ画 ピストイアのサン・ドメニコ教会「キリストの磔刑図」1275~80
  2. ジョットーがスクロベーニでフレスコ画法(ジョルナータの分割法)を完成
  3. ルネッサンス絵画の出発点としマザッチョのカルミネ聖堂ブランカッチ礼拝堂壁画「聖ペテロの生涯」がある
  4. リッピ、ピエロ、カスターニョ、ペルジーノ、ギルランダイオなどフレスコ画による教会の壁装飾は数々の傑作を生む
  5. ラファエロは、ヴァチカンの署名の間の壁画装飾を伝統的な技法にそってフレスコで制作
  6. ミケランジェロがシステーナ礼拝堂に「最後の審判」時流に逆らって頑固にフレスコで制作

ジョットーからミケランジェロまでの300年は、フレスコ画(ブオン フレスコ)の時代

フレスコ画とルネッサンス精神との連関

  1. フレスコ画は一人で完成させることを前提にしている。画家個人の力量が評価され、個人の名声を重んじるルネッサンスと符号
  2. ゴシックが好かれずステンドグラスが発展しないためロマネスクやビザンツィンの壁の活用の必要性からフレスコが適した
  3. ドメニコ会とフランチェスコ会の二大托鉢修道会が13世紀に誕生。「絵で見る聖書や聖人伝」が求められた。内容も写実性が求められ、且つ物語性が発達した。
  4. 伝統や先輩からではなく、自然から直接学ぶという思想は、確実なデッサン力を必要とした。加筆修正の利かないフレスコはデッサン力を高めた。
  5. 壁面の有効な活用の必要から空間構成への関心が高まり、奥行き表現などの発展に寄与した。

油彩技法 1475年頃フランドルからヴェネツィアに油彩技法が伝わる。(メッシーナ)

鮮やかで繊細多様な彩色が可能になる。途中の書き直しが自在になる。持ち運びが容易。など

 

様式について

画家の表現方法で、ルネッサンスの場合、いかにして写実性(自然で正確な表現)を高めて行ったか? を見ていく

      1. 登場人物の表現法(単独、二人、三人、複数の群像)、ポーズ、表情、
      2. 背景の描き方と空間構成
      3. 光や陰の扱い方
      4. デッサンや彩色
      5. 全体の構図と印象  安定間、神聖感、静謐感、躍動感、演劇性など
      6. 訴えようとする趣旨の推察  画家による命を賭けた普遍性の追及を理解する

これらの項目を

    • 時代間(時の流れによる変化)の比較、
    • 同時代の他の画家との表現の違い比較、
    • 画家本人の時間の経過と共に変化する様子、 など、

比較することで変化がよく読み取れる

ルネッサンスの天才画家たちは、人間の普遍的な価値を探ることに真摯に努めて、新しい発見を絶妙に継承しつつ300年間絶えることなく積み重ねて、振れを興すことなく向上を果たして、絵画における真の写実表現を達成した。 

 

500年の時間の淘汰を経て尚世界中から称賛される天才たちのこの絶妙な継承の過程を読み取るのがルネッサンス美術鑑賞の楽しみ              以上