システーナ礼拝堂 とは?
礼拝堂の大きさは凡そ 13M*40M( *20M(高さ))
礼拝堂は実は三階建てで、一階部分がもっとも大きく、実用的な窓がはめ込まれた壁面と円天井、そしてヴァチカン宮殿へと通じる出入り口で構成されているという。
システィーナ礼拝堂のもっとも重要な階層といえるのが二階部分で、奥行き40.9m、幅13.4mで、これは『旧約聖書』の『列王記』6章にあるソロモン王の神殿の比率と同じである。天井は筒形の円天井で高さは20.7m、壁両側面にはそれぞれ6枚の細長いアーチ状の窓があり、片端面には2枚の窓がある。(三階部分は衛士の控え室となっているらしい。)
重要な2階部分は、側壁と天井と正面祭壇、背面と周囲の壁一面にフレスコ画の装飾がある。
その装飾は、3つの異なる制作時代による3区分の構成からなっている。
- 側壁 中段/下段(81^82) フィレンツェの画家4人が中心
- 天井画/側壁最上部(08~12) ミケランジェロ
- 祭壇画(40前後) ミケランジェロ
システーナ礼拝堂のあるヴァチカンの位置
今回の連作の場所は、フィレンツェ近郊から離れてローマである。ローマ市の中心に近いところテベレ川の外側にヴァチカンはある。
ヴァチカンのサン ピエトロ寺院はブラマンテの設計による。右奥にシステーナ礼拝堂が見える。
システーナ礼拝堂(The Sistine Chapel )は 門閥ローヴレ家出身のシスト4世( Sixtus IV della Rovere)によって1475年から 1483年に建てられた。簡素な外観で、建築様式上の特徴も装飾もなく、建てられた当初も現在とほぼ同じ外観であったという。西側も上層部の窓は2面あるが行列用の入り口はない。
システーナ礼拝堂の内部
システーナ礼拝堂内部全体の写真
天井画はミケランジェロが弟子をほとんど使わずに、1508~1512の期間で一人で描きあげた。
正面は同じくミケランジェロが描いた最後の審判で 1535~1541年の期間で完成した。
下の写真は祭壇と反対の西側を見た外観。
壁画の鑑賞をする観光客は図の赤い線に沿って右上の入り口から入って下右側の出口から去ることになっている。
天井装飾の依頼の経緯など
ミケランジェロの時代には、礼拝堂の装飾はすでに出来ていた。天井には星空が描かれていた。側壁最上部にもペルジーノらの絵があった。
これらを壊して装飾をやり直すことが、ミケランジェロに与えられたミッション。:::天井画と側壁最上部が対象。
東祭壇側上層部には西側と同じ二面の窓があったことがわかる。これは後にミケランジェロによって「最後の審判」を装飾する際に取り壊された。
シスト4世の甥であるユリウス2世がミケランジェロに依頼した。 1508/09年開始して1512年には完成した。
天井画装飾の作者のこと
ミケランジェロ・ブオナローティ (1475~1564)
ジョルジョ・ヴァザーリ (1511~1574)の「美術家列伝」 1550(1568年改訂)とア スカニオ・コンディヴィ(1525~1574)の「ミケランジェロ伝」の二つの伝記がある。
ミケランジェロは「貴族の家系 で、カノッサ伯の子孫」とコンデヴィは描いた(実際は違う)。
ミケランジェロの初期 (もともと彫刻家である)
- 「ピエタ」 サンピエトロ大聖堂内にある。
- 「バッカス」 ・・・ローマ時代の神(異教の神を主題にした)
- 「ダビデ」 ・・・フィレンツェに戻った後
(注)「聖家族」はジャンルが異なる
*********************************************
年表の確認
- 88ギルランダイオ工房(13歳頃) サンタマリア・ノベッラ マリア伝を描いていた(手伝った?)
- 94Venezia、Bolognaに逃げる。フランス王シャルル8世の侵攻を避けた。
- Veneziaでは作品を作らない
- Bolognaには3体の彫刻が残っている・・祭壇画の中の装飾
- 96ローマに行く・・・・5年滞在、「ピエタ」と「バッカス」を制作
- 1502フィレンツェが共和国宣言、フィレンツェに戻り「ダビデ」を作る
- 08ローマに再び行く —-ここから様式が変わり始める
- 08~12システーナ礼拝堂天井画装飾・・・・・この投稿のテーマ
**********************************************
天井を一望する写真
The ceiling 1508-12 Fresco Cappella Sistina, Vatican
天井画の装飾について
主題・・・・・4つのグループに分けられる。一瞥してとても複雑に見える装飾もこの4つに区分してみてゆくと、内容が容易に理解できる
天井画全景 と主題による四区分の色分けを下に図示する。
- 中央を横断している大場面4つ、小場面5つの装飾(グレーの網掛け)の主題が『旧約聖書』:(全32冊)のうち「創世記」の連作形式(Cycle(Cicle))
- 四隅の絵(グリーンの網掛)が旧約聖書中の神によるユダヤ人の救済物語
- 周囲の12場面の絵(ブルーの網掛)が預言者と巫女の肖像
- 8か所の三角(スパンドル)と14か所の半円形(ルネッタ)の絵(網掛け無し)がマタイ伝によるキリストの先祖たちの肖像。
創世記の物語 九場面の説明
Ⅰ 中央を横断している 『旧約聖書』:(全32冊)のうち「創世記」の中の物語を連作形式(Cycle、(伊)Cicle) 3場面ずつの3区分の物語
- 天地創造 1章:神による7日間の創造 1~3場面
- アダムとエバ 2章、3章 4~6場面
- ノア 6章~9章 7~9場面
連作は伝統的に祭壇から入り口へ向って展開することを基本としている。ミケランジェロもこの伝統を採用している。したがって、製作年代の順は物語の展開の順とは逆になっている。すなわち、3.ノア から描き始めて、1.天地創造で完成となる。
物語は主祭壇から後陣に向かって下記の順番になっている。製作はこの逆順。
- 天地創造 『光と闇の分離』
- 天地創造 『太陽、月、植物の創造』
- 天地創造 『大地と水の分離』
- アダムとエバ 『アダムの創造』
- アダムとエバ 『エヴァの創造』
- アダムとエバ 『原罪と楽園追放』
- ノア 『ノアの燔祭』
- ノア 『大洪水』
- ノア 『ノアの泥酔』
ミケランジェロは天井画(08~12)を描くにあたって、既に描かれていた側壁画(81^82)の内容を十分に考慮した。物語の順番と絵の配置が入れ違っている部分があるのはそうした絵と絵の関係を配慮したものと考えられている。
個々の場面の主題を物語順に説明する。
a.天地創造 祭壇から最初の3場面::::7日間の天地創造
写真の下から上に (第3場面は切れて次の写真の一番下にある)
- 第1場面 光と闇の分離(第1日目の創造)
- 第2場面 大地(植物)の創造と太陽と月(天体)の創造(第3日目と4日目の創造) 神が二人描かれている・・異時同図
- 第3場面(この写真では切れている) 水の層を上下に分けて空気の層を創造(第2日目の創造) カオス状態(=水中)を分離して生存の世界(=空気の層)を創造した
この順番が入れ替わった理由は、ミケランジェロが既にある側壁の構成に出来るだけ合わせた。
5,6,7日目が省かれている・・鳥の創造、獣の創造、安息を省いた。
b.アダムとエバ
写真は下から上に (この写真の一番下は第3場面が来ている)
- 第4場面 アダムの創造 アダムに神が息を吹き込んだ 最も美しい絵
- 第5場面 エバの創造 神は、アダムの肋骨を使ってエバを創る
- 第6場面 原罪と楽園追放 アダムとエバは、神から、この木の実を食べてはならないと言われていた。蛇の誘いでエバが知恵の木の実を食べる、アダムにも勧める。
- 神との約束を破ったことに神が怒り、命の木を食べてしまう前に楽園を追放する。
c.ノア 話が大きく飛ぶ・・4章5章が省かれる(息子のカイン、アベルのことが省略)
構成が8場面を中心に組み立てられている、8――7――9の順番となる(写真の一番下が第7場面)
- 第8場面 予言の通り大洪水で人々を一掃する
- 第7場面 ノアの家族8人と動物たち 神への感謝のため、祭壇に羊を置いて焼く。神はそれを見て天から虹を降ろして、2度とこのようなことをしないと約束する 「ノアの橎祭」
- 第9場面 ノアの家族の話 ノアはワインも造り、自分で飲みすぎて眠ってしまう。右端の息子ハムがノアを見て嘲笑する。ヤペテとセムは見ないようにして布をかけてやる。後でハムの嘲笑を聞いたノアは、ハムの子カナンに呪いをかける。
改めて創世記の装飾の位置関係を確認しておく。
- a.天地創造 祭壇から最初の3場面::::7日間の天地創造
- b.アダムとエバ
- c.ノア 話が大きく飛ぶ・・4章5章が省かれる(カイン、アベルのことが省略)構 成が8場面を中心に組み立てられている。
九場面夫々を構成や図像を考えながら詳しく見てゆく
第1場面 光と闇の分離(第1日目の創造).
神の右手が黒く塗りつぶされ、一方左手は白い雲が光を受けて明るく描き分けられている。従来キリスト教では右手にある(いる)ことと左手では重要な意味の違いがある。この絵では左手に最も重要な「光」を持ってきているが、これは従来の考えと違っている点である。
ミケランジェロは、全体の構図の必要性から、この点で伝統に従わなかった。身体のひねり、上半身の大きな動きなど忙しく働く様子が劇的な図像である。
奇数場面には回りに裸体の青年像が置かれている。 意味は分かっていない;;4つの主要元素/天使/人間の気質/を表す;などいろいろな説がある。 決定付ける特徴、象徴などが描かれていない。
第2場面 大地(植物)の創造と太陽と月(天体)の創造(第3日目と4日目の創造)
神が二人描かれている・・異時同図 左側奥の方から手前に飛び出してくる神の飛翔する図像で、左側手前から奥の方へ飛び去っていく姿の神の像。二人の神を短縮技法を駆使して大きく表現し、休みなく動いて創造している神を動的に描いている。
第3場面 水の層を上下に分けて空気の層を創造(第2日目の創造)
カオス状態(=水中)を分離して生存の世界(=空気の層)を創造した。天使と共に動き回る神の姿を短縮法で描き、大きく腕を広げながら奥から手前に飛び出してくる様子がすこぶる動的である。
この順番が入れ替わった理由は、既にある側壁の構成にミケランジェロが出来るだけ合わせた。
b.アダムとエバ
第4場面 アダムの創造
アダムに神が息を吹き込んだ瞬間を描いた。 最も美しい絵。ヘブライ語のアダマ(=土)からアダムを作り、息を吹き込むとアダムの上半身から生気が生まれる。差し出した指と指が今まさに接して生命を誕生させる瞬間をダイナミックに描いている。地平線を省き創造する神とアダムの二つの人物像に焦点を絞って描いている。しかし、構図的には、神とアダムが両側に対峙していて、左右のバランスはしっかりと保っている。
最も美しい絵・・天井画の様式を考える際にポイントになる絵である。
第5場面 エバの創造
神は、アダムの行動を見守り、生き物たちの中から誰を伴侶に選ぶか見ていたが、アダムを現存の中からは選ばなかったので、アダムの肋骨を使ってエバを創る。アダムを深い眠りにつかせて、その肋骨を取り出して創った。 伝統的な図像ではアダムの脇からじかにエバが出てくる。この絵も伝統に従っている。
第6場面 原罪と楽園追放
アダムとエバは、神からこの木の実を食べてはならないと言われていた。
生き物の中で最も賢いといわれる蛇の誘いでエバが知恵の木の実を食べる、アダムにも勧める。(りんごの木とは聖書には書かれていない)
知恵の木を食べたことで知恵がついた、裸に気づく、恥ずかしさが出て、無花果の葉で隠す。
神との約束を破ったことに神が怒り、命の木を食べてしまう前に楽園を追放する。 追放にあたり、原罪に対して罰を与えた。蛇は生涯地を這い回る。アダムは労働の苦しみ、エバは産みの苦しみを与えられた。
聖書では、神は追放にあたり毛皮で服を作ってやり楽園の門まで見送った。門に炎の剣を置いた。 この絵では、神が炎の剣で追い出している。
人物像は主役のみに絞っているし、風景も単純化している。しかし、地平線をしっかりと描き入れて従来のバランスのある図像を引き継いでいる。
c.ノアの物語
話が大きく飛ぶ・・4章5章が省かれる(カイン、アベルのことが省略された)
神は‘産めよ増えよ‘で増えた人々を見ていた。はじめに思ったことと違う、そこで一掃することに決めた。
唯一正しいノアに告げる。箱舟を作って備えるように詳しい作り方も伝授した。
構成が8場面を中心に組み立てられている、8――7――9の順番
第8場面 ノアの洪水 予言の通り大洪水で人々を一掃する。
箱舟を奥に一番小さく配置した。伝統と異なる。
時間を少し前に戻して、洪水で逃げ惑う人々を描いた。
4つのグループ群像で表現している。
第7場面 「ノアの橎祭」
ノアの家族 8人と動物たち。神への感謝のため、祭壇に羊を置いて焼く。神はそれを見て天から虹を降ろして、2度とこのようなことをしないと約束する。
第9場面 「ノアの泥酔」 ノアの家族の話
ノアは自分で地を耕し食べ物を作る。
ワインも造り、自分で飲みすぎて眠ってしまう。息子たち3人(ハムとヤペテとセム)がそれを見る。右端のハムがノアを見て嘲笑する。ヤペテとセムは見ないようにして布をかけてやる。
後でハムの嘲笑を聞いたノアは、ハムの子カナンに呪いをかける。
大場面で描いているのが、第2場面と第4場面と第6場面及び第8場面。主題の表現上で重要な意味がある4場面の絵である。
もう一つは、側壁の連作との関係で順番を入れ替えた。ミケランジェロは天井画(08~12)を描くにあたって、既に描かれていた側壁画(81^82)の内容を十分に考慮した。
四角のペンデンティブの絵について
Ⅱ 第2グループ 建物の四隅(ペンデンティブ)の絵
パンダーティック=(仏)宙ぶらりんの意味
旧約聖書中の四場面を構成したものだが連作ではない。
ユダヤ人の歴史の中からとった物語。神によるユダヤ人救済の話。ユダヤ人は、アッシリア、バビロニア、ペルシャ、ギリシャ、ローマなどから迫害された歴史がある。
①ダビデとゴリアテ ダビデ;BC10c頃のイスラエルの王2代目 初めて王国を築いた。
ペリシテ人の大将ゴリアテを投石器一つで挑み、相手の油断を誘い、首を切る。いずれダビデの子孫から救済者が出る・・メシヤ(ギリシャ語でキリスト)イエスはダビデの子孫である。
②ユデイトとホロフェルネス
ベツレヤ(ユダヤの町)がアッシリアに包囲されていた。ユデイトは知恵を働かせて、アッシリアの王、ホロフェルネスの館に入り込み油断を見て寝首を取る。いずれも神が後ろにいて救済をしたという考え。
③反対側 青銅の蛇 モーセの「出エジプト記」の中から
モーゼの時代、ユダヤ人はエジプトで奴隷として働いていた。カナンに向う途中の道で苦難から民が不満を言う。神が怒り毒蛇を送り蝦ませる。毒に苦しみ反省をする民をモーセが神にとりなす。
青銅の蛇を作り毒を消す。反省をすれば救済されるという寓意である。
④ 「エステル記」ハマンの処刑 ペルシャに移住していたときの話
ハシュエロス王に仕える長官ハマンはユダヤ人抹殺の計画を作る。エステルは知恵と勇気でハマンをハシュエロス王に直訴し、王がハマンを処刑する。
Ⅲ 第3グループ 預言者と巫女
礼拝堂の左右それぞれ5箇所と後陣側と主祭壇側それぞれ1箇所にもペンデンティヴ部分がある。
第1グループの周囲にあたるこの位置に、預言者たちと巫女たち(異教徒)が置かれた。預言者と巫女が交互に配置されている。
Zechariah 1509 Fresco, 360 x 390 cm Cappella Sistina, Vatican ゼカリア 後塵側 祭壇側のヨナと向き合う位置
主祭壇側には預言者ヨナが、後陣側には預言者ゼカリヤがそれぞれ描かれている。残りの10名は左右に分かれて男女交互に描かれており、主祭壇上部のヨナから時計回りに以下の人物像が描かれている。
巫女たちは聖書には出てこない。敢えて女性を描くために、ギリシャの巫女を入れる。ミケランジェロの創意であり彼の人間味と信念が読み取れる。
- 『ヨナ』 – 主祭壇上部
- 『エレミヤ』
- 『ペルシアの巫女』 (Persian Sibyl)
- 『エゼキエル』
- 『エリュトレイアの巫女』 (Erythraean Sibyl)
- 『ヨエル』
- 『ゼカリヤ』 – 後陣上部
- 『デルフォイの巫女』 (Delphic Sibyl)
- 『イザヤ』
- 『クエマの巫女』 (Cumaean Sibyl)
- 『ダニエル』
- 『リビアの巫女』 (Libyan Sibyl)
Jonah 1511 Fresco, 400 x 380 cm Cappella Sistina, Vatican ヨナ 祭壇側上部 後陣側 ゼカリアと向き合う位置
The Persian Sibyl 1511 Fresco, 400 x 380 cm Cappella Sistina, Vatican ペルシャの巫女
Ezekiel (detail) 1510 Fresco Cappella Sistina, Vatican 預言者エゼキエル
The Cumaean Sibyl 1510 Fresco, 375 x 380 cm
Cappella Sistina, Vatican クエマの巫女
Isaiah 1509 Fresco, 365 x 380 cm Cappella Sistina, Vatican 預言者イザヤ
The Libyan Sibyl 1511 Fresco, 395 x 380 cm
Cappella Sistina, Vatican リビアの巫女
Joel 1509 Fresco, 355 x 380 cm Cappella Sistina, Vatican 預言者 ヨエル
The Delphic Sibyl 1509 Fresco, 350 x 380 cm
Cappella Sistina, Vatican デルファイの巫女
各像の足元にプットー(幼い天使)が彩色大理石板を支えているのが絵描かれていて、そこに刻まれた銘文によって誰が描かれているのかを識別することができる。
なお、西側礼拝堂への入り口の上の方、ザカリアの銘板の下には、ローブレ家の紋章に教皇の三重冠と12個の金の実を付けた樫の木を彫り込んだ楯が掛けられていて、入り口を入って振り返った上部に位置しシステーナ礼拝堂を創立した二人のローブレ家出身の教皇を記念している。
また預言者像の両脇上部、裸体の青年像が座る柱の柱頭を支える部分には天使(putti)が描かれている。製作した時期により様々なポーズがある。
Ⅳ 第4グループ キリストの先祖たち (マタイ伝)
三角形(スパンドル)8か所と半円形(ルネッタ)14か所がある。
ヨセフの血はイエスには流れていないのだから、先祖というには矛盾がある。ユダヤは男系社会であり、聖書にはいろいろ矛盾はある。
家族の絆のいろいろな形が見えてほほえましい絵の数々である。ミケランジェロの豊かな人間性が見える良い絵の一覧である。
救済物語の上部の四隅の柱の隙間にもモニュメント的な装飾がしてある。
男の若者の裸体像
奇数場面には回りに裸体の青年像が置かれている。
意味は分かっていない;;4つの主要元素/天使/人間の気質/を表すなどいろいろな説がある。決定付ける特徴、象徴などが描かれていない。
肉体表現がすぐれていて美しく、ラファエロはじめ後に続く画家たちに影響を与えた。
製作の時期と様式について
ミケランジェロは ユリウス2世から 1505に依頼されるが、暫らく逡巡したが、結局 1508/夏頃~1512の期間で制作した。
1506年にローマ市内の地下から古代ギリシャの彫刻《ロ―時代の正確な大理石模刻)ラオコーンが発掘され、大きな衝撃を与えた。ミケランジェロはこの彫刻をよく観察したといわれる。
1508/5に教皇庁から入金がある、という記録がある。4年間かかりっぱなしではなく、途中(10/夏~11/夏)中断期間があった。
ミケランジェロ研究者;トルナイ氏は、様式を研究する上で、製作の 時期を二つに分けた。 前期/後期出特徴を捉える。
その後、 前期が更に二つに分けられるようになった、
すなわち、 前期前半・前期後半
09/冬に中断している。気候と絵の具の状態の関係などで問題の解決の必要性が?あったのではないかと思われている。
現在では、全体を3期に分けて特徴を見るのが通常となっている。
- 前期;;1508~1510 前半 08/夏~09/秋
- 後半 10/初春~10夏
- 後期;;1511~1512
様式を見るための抽出されるべき時代区分とその画面について
Ⅰ期 《大洪水》
Ⅱ期 《楽園追放》/ 《アダムの創造》は意見が分かれる→Ⅱ期orⅢ期
Ⅲ期 《天体の創造》
側壁画とのタイポロジー
第6場面 「コラン、ダタン、アブラムの懲罰」 ボッテチェリ
モーセは、荒野の旅を続けていく。大変な苦難の旅で、民からの救済の訴えを聞いては、神の救いにより一つ一つの困難を乗り越えながら、延々と旅を続ける。
民は不満を常に言う。(こんなことならエジプトを出るんじゃなかった)など。モーセが神の声を聞いて、アアロンがそれを民に伝える。不満を宥める役割
画面の右側、コラ、ダタン、アブラムがモーセに反乱し、石を持ってモーセを攻める。ヨシヤが防いでいる。アーロンの役割を私たちに替わりにやらせろと主張する。
画面の中央 モーセは、祭司とは香炉を上手く振ることが出来る人でないといけない。上手く振れた人にその役割を与えようと提案。皆が香炉を振っている場面。アーロンは悠々と誇らしげに振っている。アーロンは、三重冠風の帽子を冠っているが、ローマ法王を象徴しているといわれている
他のものは香炉振りが上手くいかずに焼けどを負ってしまう。後景の凱旋門の銘には、次の内容が書かれている。「祭司という職業は、アアロンのように選ばれたもののみが出来るのであって、誰でも出来るものではない」。「祭司」を「ローマ法王」と置き換えて読むと、時の法王シスト4世を称えている銘となる
左端は、反逆への報いの画面。地が割れて、反逆者たちが地中に吸い込まれている。3,000人くらいの大勢が地中に落ちた。ユダヤ人でも神に従わないものは、地中に落ちるという戒めである。
第6場面「ペテロへの天国の鍵の授与」 ペルジーノ
Christ Handing the Keys to St. Peter 1481-82 Fresco, 335 x 550 cm
イエスは、自分は処刑される身であるが、その後、人々を天国へ導きなさい、と伝えてペテロに鍵を渡す。
ペテロは教会を建てる。それがこのサン・ピエトロ聖堂(ヴァティカン)
キリスト教会のルーツを語っている。ローマ法王に関する全ての起源として非常に重要な位置づけである。ヴァティカンの礼拝堂に描かれていることに重要な意味がある。
描かれている凱旋門の銘版の意味は「シスト4世はソロモンに匹敵する法王である」とある。ソロモンはイスラエルに神殿を建てた。
シスト4世がペテロから続くローマ法王の系譜上にある」ことを言いたかった。
奥の景の2場面 (人が踊っているように見えるところ)キリストに対する反逆者のことを描いている。
左は「貢の銭」 キリストとユダヤの兵士達。ユダヤはローマの植民地であり、税金を払っていることに不満を言うユダヤ兵。キリストは、かれらの稼いだコインを見せてもらう。コインの裏に刻まれたカエサルの肖像を見て、「カエサルのものはカエサルに」といって、上手くはぐらかす
右側キリストと人々。「律法は完全ではない」というキリストに疑いを持つものたちが石を持て殴りかかる図。
⑦.G : g 法の伝達
最後の晩餐は、伝達の儀式、聖餐式(パンはキリストの肉、ワインはキリストの血)キリストの肉と血を弟子たちに入れた。 死を認識し、福音を遺言として、引き継いでくれと伝えた。
モーセは、カナンに到着し、モラブの地でカナンに入る際の「法の細則」を伝えた。そして、後継者=ヨシヤを指名し、神から授かった杖をヨシヤに渡す。そして死の場面。
⑥.F : f 始祖への反逆
キリスト伝では、天国への鍵をペテロに渡す・・ローマ法王のルーツを描いた。銘文には「イエスキリストへの反逆」とある。絵の中心にはローマ教皇のルーツを描いて反逆の場面は後景に小さく二つ描いた。
モーセ伝では明確に反逆の場面を3つ中心に描いた。キリストでは反逆を弱く表現して、モーセ伝のタイポロジーで反逆の事実が伝わるようにした。
ミケランジェロは側壁画のタイポロジーの意味を出来る限り活かして天井画の創世記の連作と関連付けようと努めている。概要をまとめると下記の表のようになる。
天井画の配置相互の位置関係
第四グループキリストの先祖たちは、第7代までは正面に描かれ、その後左右にジグザグに進む。タイポロジーとして共通化したテーマを、天井画にも配慮し、側壁との三角形を構成しようとした。ラティン語の銘文が重要な意味を持つ。下記によりその訳をみる。
- ①.A : a 始祖の誕生
- ②.B : b 再生のための儀式
- ③. C : c 始祖に与えられた試練
- ④.D : d 始祖に同意するものたちの集い
- ⑤.E : e 法の公布
- ⑥.F : f 始祖への反逆
もう一つ、「選ばれたもの」が側壁画とのタイポロジーのテーマである。
キリストに仕えるペテロと、モーセに仕えるアーロンが対称。 司祭(教会)は選ばれたものがやる
アーロンが三重冠を冠っている。キリスト教の教皇の姿を表現し、その意識を信仰する者たちに伝える意図がある。
キリストの死の場面とモーセの死の場面が絵の中に占める位置で対置している。
古代彫刻の発掘が様式が変化するきっかけに
15世紀末から16世紀の初め、すなわちミケランジェロの活躍の時代に、芸術表現上に影響を与える大きな出来事があった。古代ギリシャ彫刻(ローマ時代の正確な大理石摸刻)の相次ぐ発掘である。ローマ市民は、千五百年も前に到達した完璧な写実表現を目の当たりにすることになる。それを超える芸術作品の創造に対するミケランジェロへの期待は大きかった。
様式を見るための抽出される4画面とその時代区分
- Ⅰ期 《大洪水》
- Ⅱ期 《楽園追放》 《アダムの創造》は意見が分かれる→Ⅱ期orⅢ期
- Ⅲ期 《天体の創造》
完璧な古代彫刻の発掘の後で製作されたミケランジェロの《大洪水》は、それまでのフィレンツェの盛期ルネサンスの画家たちの様式とはどのように変わったか?側壁画との違いは何か?
調和の点を左右対称にはしていない→ジグザグに配置している、しかしバランスは大きくは崩れていない。動きを表現する工夫が込められている。
登場人物のポーズは激しい動きを表現している。ペルジーノやギルランダイオと違いが鮮明になっている。画面に「動」を与えるという意図が見える。ドラマ性を強調している。
空間性(イリュージョン);(高い天井という特性も考慮)空間を作ろうとする工夫を捨ててはいない。メインのモチーフを後ろに置いて観る人の目が行くようにいざなう工夫がある。しかし、合理的で完全な空間を作ることには熱心ではない。
大洪水を描いた時点では、伝統的な表現とつながりを保ちながらも、聖書にも書かれていないような人間の行動を表現し、彼らの作り出すドラマを描こうとする。人間の作り出すドラマを描くことに主眼を置いて、先生とは違う描き方をしようとする自覚があったと思われる。
弱点は何か?;細かすぎて観る人に良く分からない。20mの距離の影響を想定できていない。自分の意図を見る人に伝えきれない失望。足場を外して下から見て初めて自覚した?
《アダムの創造》
《大洪水》との違いを把握する。 このことがシステーナの様式を理解するポイントである。
- 登場人物が大きくなった。主役に集中しそれ以外をあまり登場させない
- 奥行きがほとんどなくなった。登場人物を絞り込んで手前に大きく描く。奥行きは伝わらない
- ドラマを作ろうという意図。フィレンツェ洗礼堂のモザイク画《アダムの創造》の伝統的様式と比較。神が飛来する(宙に浮遊する神)→→「動」を表現する工夫。神のポーズが、流れるような、飛ぶような表現に、また周りの人を簡略にして動きを出すための位置づけにしている。一方アダムは、「静」的に描く。双方のコントラストを明確に出した。手(指)の表現が劇的である。画家たちは頭と手の表現に特に注意を払う。
- 背景もほとんど描かない。アダムの下に一応「土」は描いたが、大雑把で概略の存在を示しただけ。人間以外のモチーフに払われる注力が少ない。
- 空間を無くすことで動きを出す。ミケランジェロの、その開き直りがすばらしいところ。
ガスパレル・インナーという版画家が、この絵を普及させようと版画に模写した。残念ながら、彼は、ミケランジェロの意図を理解していなかった。
同時代の人たちでも、なにが凄さを生み出しているのか、良く分からなかった?
ミケランジェロは元々彫刻家であり、彫刻家は人物像の創造に当たりリアリティを重視するものであるが、彼は、天井画を描くにあたり、その束縛から開き直った。
Ⅱ期 《楽園追放》 →→《アダムの創造》より時期が早い
イリュージョンを棄て切れていない。3次元的な空間が描かれている。地平線、木の配置。伝統的な図像から離れ切れていない
人物像を大きくした。ドラマ性を目指すのは一貫している。神がアダムに突きつける剣の先など。しかし、空間作りは、引きずったまま。
アダム・・で開き直った結果、更に大きく展開できた。
4つの画面、それぞれが違う様式となった。
全体の中でこの4画面を押さえることが理解のポイントである。
大洪水とアダムをまず比較して、違いを理解したうえで、4つの違いを知ることが理解を容易にする。
Ⅲ期 《天体の創造》
《アダムの創造》とまた違ってきている。
共通点は? 余計なものは描かない。主役をより大きく
違いは?
- ダイナミズムを更に強調するようにした。 アダム・・では、動きの方向が右上から画面に平行に進む。
- 天体では、右の神は右奥から手前方向に立体的なベクトル。
- 左の神は左向こう側に退いていくベクトル。動きに変化やリズムをつけている
- 神の両手は画面に対して角度をつけて広げる。人物のポーズによって空間を作る工夫がある。
- 足の裏から神を描いた。足の裏を手前に描き、手の先を一番奥に描いた。
アダム・・で開き直った結果、更に大きく展開できた。
大画面である4つの画面、それぞれが違う様式となった。
全体の中でこの4画面を押さえることが理解のポイントである。
大洪水とアダムをまず比較して、違いを理解したうえで、4つの違いを知ることが理解を容易にする。鑑賞がなお面白くなる。
こうした3期に分割された製作期間ごとの様式の違いは、中央の大画面4つの比較で明らかになるが、当然、周囲の預言者と巫女の像にも同様の様式の違いが出ている。最初の09年に製作した預言者ザカリアと最後11年に製作したヨナの違いは大きい。ヨナはスペースをはみ出すように大きく、ポーズもダイナミックになっている。
裸体の青年たちが座る柱の柱頭を支えるputtiのポーズも同じように様式を違えて周囲の様式と統一がされている。ミケランジェロの画面の隅々まで疎かにしない芸の細かいところ、凄いところが見える。
同じ場所で、ミケランジェロの先生であるギルランダイオの側壁画と比較ができる点も面白い。
第4場面「弟子たちの召喚」 ギルランダイオ
Calling of the First Apostles 1481 Fresco Cappella Sistina, Vatican
弟子を増強していく話
左ガリラヤ湖にやって来た時漁をしていたペテロとアンデロに合う。「魚を取るのではなく人を採る仕事をしないか?」と誘う
中、ペテロとアンデロがキリストに従うことを決めている。
右側中景キリストがペテロとアンデロを従えて、船上にいるヨハネとヤコブの兄弟を誘っている。ヨハネやヤコブのことは聖書にはほとんど書かれていないが、左右のバランスを考慮して、兄弟を弟子にする話として入れた。
ミケランジェロは「ノアの洪水」で様式を大きく変えているが、第Ⅱ期以降そこから更に大きく様式を進化させている。システーナ礼拝堂の天井画がラファエロはじめ後に続く画家に大きな影響を与えた。
システーナ礼拝堂 の 装飾 (了)
ピンバック: 盛期ルネサンス絵画の展開(その六) | KuniGs Documenti e Memorie