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聖母子像に見る進化
「聖母子像」はキリスト教絵画の重要主題であり信者に最も好まれた。「キリストの磔刑図」「聖母子像」「聖フランシスコ像」が主要三主題。
ここでは「聖母子像」の主題に絞って、ルネッサンス期の絵画の 写実の進化を見る。
ルネサンスの定義と時代区分
ルネサンスの定義
古代の写実をよみがえらせる。具体的には、キリスト教の聖人たちの表現を、 中世における天上人としての扱いから、現世人として描くように改革する。 それはキリスト以前の文化の蘇りを計る。
絵画史の大きな流れ
(西洋美術史)を概要で言うと
Ⅰ 古代 B.C.7C~AD5C 写実
Ⅱ 中世 AD6C ~AD13C 非写実
Ⅲ 近世 AD14C~19C(前半) 写実
Ⅳ 近代/現代 19C(後半)~21C 非写実
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写実性の比較
ジョット以前の「聖母子像」には、「偶像崇拝禁止」対「視覚的な素材の必要性」の間で厳しい葛藤が見られる。結果として厳しい規範のもとでの絵画表現が許された。 6世紀に表現上の厳しい制約条件が整備された。
その後、約7百年間、様式は全く変化しないという現実がある。
12~3世紀、写実への兆しが起こる - ルネッサンスの意義
人間性への覚醒
人間の尊厳への確信と啓蒙の意志
自然の観察の徹底
自然をそのまま写しとることが最高のこと - ルネサンスの歴史の時代区分
- 1.プレ・ルネサンス 1290頃~1420頃 ジョット
- 2.初期・ルネサンス 1420頃~1470頃 マザッチョ
- 3.盛期・ルネサンス 1470頃~1520頃 レオナルド 4.後期・ルネサンス 1520頃~1610頃 カラヴァッジョ
- (ミケランジェロ、 ラファエロは盛期の巨匠)
各時代の特徴
• プレ・ルネサンス 人間として表現したいという願望
• 初期・ルネサンス 光と三次元空間とリアルな彫像、タブーに挑戦
• 盛期・ルネサンス 正確な肉体の把握とダイナミズム 、空気遠近法
• 後期・ルネサンス 光と闇の対照効果、事象のクライマックスを表現
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プレ・ルネサンス
ジョットの革新
Ognissanti Madonna (Madonna in Maestà)
c. 1310 Tempera on wood, 325 x 204 cm
Galleria degli Uffizi, Florence
ジョットの革新
中世からルネサンスへの変化が 13世紀に起こる
ジョットがそれ以前の絵画様式をどのように変えたのか?
主題は中世と基本的に変わらない。様式が大きく変わり、より写実的な表現に変化していく。
聖人を人間的に表現しようという概念がある。この聖母子では、それ以前には見られなかった自然さがある。聖母が頭に冠った透き通る素材の微妙な表現や、聖母の着衣を通してやわらかな膨らみさえも感じる母なる女性の崇高な表現はほとんど自然そのものに思える。
神の子であるイエスとその周辺の聖人たちを、一人の人間として表現したいという願望が写実を進める原動力となった。→→→芸術意欲を引き出した。
初期・ルネサンス
マザッチョの改革
Madonna with Child and Angels 1426 Egg tempera on poplar, 136 x 73 cm National Gallery, London
マザッチョの改革 ジョットを受け継いだ上で新しい様式を創造した。
- 人体表現が正確である
- 平面の中に奥行きを作る
- 光の表現が正確で豊かになる
ジョットーが明暗法を用いて主体化しているのに対し、右上から差し込んでくる自然の光でリアリティを表現してる点など写実がより正確性を増している。
フラ アンジェリコ Linaioli Tabernacle (shutters open) c. 1433
- Tempera on panel, 260 x 330 cm
- Museo di San Marco, Florence
リナイオーリの祭壇画 フラ アンジェリコ - サン マルコ聖堂 フィレンツェ
サン・マルコ修道院では、1430代の「リナイオーリの祭壇画」と1440代の壁画(40枚ほど)を実際に比較して見ることが出来る。
フラ アンジェリコは 「受胎告知」 で日本人にもなじみが深い。修道士でもあるアンジェリコは、マザッチョと同じ時代の画家であるが、聖人たちの神聖を尊重し、過去の規範を残し、奥行感の表現などには写実性の追求が見られるもののマザッチョほどの革新性は見せていない
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フィリッポ リッピの宗教的タブーへの挑戦 タルクイニアの聖母 ローマ 国立絵画美術館
- Madonna with Child (Tarquinia Madonna) 1437
- Tempera on panel, 151 x 66 cm
- Galleria Nazionale d’Arte Antica, Rome
フィリッポ リッピによる 世俗化と人間的な情愛の表現
背景はマザッチョと異なり、金地背景ではない。右にベッドを置きマリアの寝室を表現、左には奥にアパートの窓が見え、さらに左の窓からはトスカーナの田園風景が描かれている。すなわちこれは現実的空間を表現しようとしたものである。マリアの表現を見ると世俗化の狙いがうかがえる。 光臨が取り除かれている上、身につけるものを描いて世俗性を表現した。ベールをとめる道具や指につけた装飾品で人間としてのマリアを表現している。
祭壇画であり、司教からの依頼であるにもかかわらず敢て世俗化したのには彼の新しい時代への挑戦と考えたい。しかも教会のタブーの強さを考えるとその信念のお強さがうかがえる。
- 聖母子と二天使 1465 ウフィチ美術館 フィレンツェ
- Madonna with the Child and two Angels 1465
Tempera on wood, 95 x 62 cm
Galleria degli Uffizi, Florence
聖母は画家の妻ルクレツィアをモデルにしたと言われている。晩年(66年スポレートに行く前)の作 65年頃の作とされている。聖母は世俗的に描こうとしている。前々からその意志がある。しかし歳と共に顔の様子は変化している。窓の前に座った構図と椅子の肘掛の渦巻き模様は共通している。
ウフィツィの中で もっとも質の高い作品であり、デッサンが残されている。背景表現がこれまでになかった空気遠近法を使い、地平線、空を描く新しい試みをしている ピエロの空気遠近法と同時期のことである。繊細な線的表現が始り、この様式はボッテチェリに継がれていく。(ボッテチェリはリッピの工房にいた)。髪の装飾もより大胆になっていて世俗性は継承されて、かつより洗練されている。単に聖母子を描いたというよりは明らかに、世俗的母子の情愛が強く表れていて、親子の関係に自身が薄かったのでその思いが出ているのかもしれない。
ピエロ デッラ フランチャスカの創意
- 聖母子と聖人達とウルビーノ公(モンテフェルトロ)ブレラ
- Madonna and Child with Saints
- (Montefeltro Altarpiece) 1472-74
- Oil and tempera on panel, 248 x 170 cm
- Pinacoteca di Brera, Milan
ピエロの遠近法と身体像のデフォルメ
キリストの姿、表現に特徴がり、眠れる幼児キリストは深い哀悼を象徴する。赤い珊瑚の首輪は魔よけの徴(ギリシャ神話に起源)でフランドル的要素。ピエロは、ウルビーノでフランドルの影響を受け、60年代以降の仕事に反映している。フィリッポ・リッピにはフランドルの影響がより強く出る。建物をしっかり描くのはフィレンツェ流ルネサンスの特徴。ルネサンス式建物と人物との大きさのバランスがよく取られたしっかりと計算された遠近法の技法である。身体像は独特のデフォルメがされているが、それが聖なる場所の静謐性をより深く表現するのにいきている。
やわらかい光が神聖な場面にふさわしい明るい天上の雰囲気をかもし出す。頭上の(駝鳥の)卵はマリアの処女性と、生命の復活の象徴。公の妃バティスタは女児ばかり生んでいたが、やっと男児を出産した後すぐに亡くなった (1472)。
ピエロは恩人モンテフェルトロの妻への深い哀悼の気持ちを「眠れる幼児キリスト」のエンジェル・ピエタ的な犠牲に重ね合わせて表現している。この無念の死は祈りにより鎮められ、駝鳥の卵が復活の象徴として思いを託されている。
- マグダラのマリア Arezzoのドーモ
- Saint Mary Magdalen 1460
- Fresco, 190 x 105 cm Duomo, Arezzo
この絵は、彼の生涯をかけた代表作サン フランシスコ聖堂の「聖十字架物語」の完成とほぼ同時期に描かれた。聖女のマントの赤と白の色の大胆な使い方は時代に先駆けている。手に持つ香水の瓶にあたる明るい光の表現や、マリアの肩にかかる豊かな髪の毛は一本一本を丁寧に描き、作者の熟練した技が見て取れる。
盛期・ルネサンス
ボッテチェッリの絵画的装飾性
- マニフィカートの聖母 ボッテチェリ 1480-81 ウフィチ フィレンツェ
- Madonna of the Magnificat (Madonna del Magnificat) 1480-81
- Tempera on panel, diameter 118 cm Galleria degli Uffizi, Florence
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- 「書斎の聖母子」 1480頃 ミラノ ペッツォーリ美術館
- Madonna of the Book (Madonna del Libro) c. 1483
Tempera on panel, 58 x 39,5 cm Museo Poldi Pezzoli, Milan
ボッテチェッリ の技巧と絵画的装飾性
ボッテチェリのこの絵は、時代の流れに沿って描かれている。レオナルド・ダ・ヴィンチの「ブノワの聖母子」と比較するとこれを強く意識して描いた作品といえる。小道具を使って複雑な心理描写をしようとした。幼児キリストの表情に、自分の死を意識している様子を表現できている。ボッテチェリの「書斎の聖母子」に描かれた、象徴としての小道具を見ると茨の冠を持っている、3本の釘を手にもつ==磔の際の道具で手と足の釘を意味する==受難の象徴を持ちながら、マリアの手に触っている。
構図全体もレオナルドを意識している・・窓から空が見える暗い側と明るい側の背景など・・
日本人に人気のある「春」ではまったく違う様式を現す
「マニフィカートの聖母子」ウフィツ 81年前 システーナ礼拝堂に招かれるの直前の絵である。周りの天使の表情が少しパターン化されている気がする。受難の象徴である柘榴を持つ =赤色と種=受難と増殖。この作品と「柘榴の聖母子」(トンド)c. 1487 が近くに展示されている。彼はリッピの影響受けた前期とシステーナ礼拝堂を手掛けた時期及びフィレンツェの戻った後、更にサボナローラに影響を受けた後と時間と共に様式が変わって行く。並列に展示されているマニフィカートと柘榴を見ることで、彼の変化の一つの過程を知る手掛かりになる。
レオナルド ダ ヴィンチ の革新
- ブノアの聖母 c. 1478 エルミタージュ美術館
- Madonna with a Flower (Madonna Benois) c. 1478
- Oil on canvas transferred from wood, 50 x 32 cm
- The Hermitage, St. Petersburg
マリアの顔、キリストの顔にレオナルドの特徴であるスフマート技法を用いている。スフマートの言葉の意味は煙で暈すということ。色を暈して立体感を出すのに使う技法。これにより陰影表現がデリケートになっている。
心理描写が優れている。主題に工夫されている。「白い花」は受難の象徴、死を予感させる。
白い花を活用して、聖母と神の子の関係を内面にまで深めて表現する。キリストが人類の罪を背負い、人類のために償いをするその運命を感じさせる内面の心理までも描こうとしている。マリアはキリストに眼をやりやさしく微笑んでいるのに対して、キリストはマリアを見ないで白い花を見つめて、やがて来る自分の死を見据えていることを暗示している。マリアの腕から手を通じてキリストに二人の関係がしっかりと伝わる構図(白い花は棕櫚かオリーブの花)
ベースになったものは、10年前に描かれたリッピの「聖母子と二人の天使」。 聖母が全身ではなく半身像であり、構図にある部屋の形態、窓があり光が差し込む。メディチ家のために描いたものでありレオナルドは見ている。マリアの顔の表情や姿が一般の女性の姿をしている。同時代の生活を模した構図は、レオナルドにインスピレーションを与えた。
心理描写が良く出ている。レオナルドは「人間は心のある存在」を訴えようとしている。
「ブノワの聖母」は帰属に問題のない作品(ただし記録はない)1470代。衣に質感が金属的で硬い。襞に遊びを入れるのも特徴である。髪型には強い関心があり、拘って描く。「ブノワの聖母」の髪は編んで更に束ねている。「リッタの聖母」エルミタージュ の聖母の髪型も複雑な模様。このための人物のデッサン を見る 拘って描いた跡がうかがえる。主題に心理的な交流をうまく描き込む工夫がされている。「白い花」は受難の象徴、死を予感させる。
ラファエロの特徴と創意
- 「牧場の聖母子」ラファエロ 1506 ウイーン美術史美術館
- Madonna of Belvedere (Madonna del Prato) 1506
- Oil on wood, 113 x 88 cm Kunsthistorisches Museum, Vienna
- 「牧場の聖母子」(マリアの衣の襟筋のところに年代が1506と書かれている)
マリアの座り方は、聖家族の謙虚さの表現である。座っている所が自然の地肌の上。質素にするために玉座ではなくなっている。・・・・フィリッポ・リッピの「キリストの降誕」が始まりである。
ペルジーノの「祭壇画」the Polytych of Certosa di Pavia ロンドン・ナショナル・ギャラリーと比較。 先生と比較するとどうなるか?
「牧場の聖母子」と「祭壇画」の中央の聖家族の比較
ペルジーノは、「キリストの磔刑」からの発展図法–謙虚さを表す。上方に天使が三人描かれ、マリアが神の子を宿したことを歌う。
ラファエロは、マリアがキリストに手を合わせていない、天使でなくヨハネがいる、ヨハネが十字架を持っている、ヨハネとキリストの絡みを描いている、マリアがヨハネを見ている、ヨハネからキリストを遠ざけようとしている、ヨハネに自ら近づこうとするキリストをマリアが遠ざけようと気遣う心情が表現されている。
- 野原にアネモネの赤い花・・・キリストの死の象徴
- ・・・キリストを受難から離そうとするマリア
- 伝統的な図像とは異なる
- 「ひわの聖母」 1507 ウフィチ
- Madonna del Cardellino 1507
- Oil on wood, 107 x 77 cm Galleria degli Uffizi, Florence
近年修復が終わった。作品の質が高い。牧場との変更点は何か?
コンセプトは同じである。十字架の変わりに‘ひわ鳥’を持っている。‘ひわ鳥’は目の下に赤いしみがある鳥・・キリストの返り血であると信じられ受難の象徴である。美術においては、ひわは十字架の代わりになる。構図は似ているようで違っている・・・マリアの右足の位置に注目してみる。自然のポーズで描かれている・・・これによりキリストとの親密感が強く出ている。三角形のピラミッド図形から離れて、楕円形が作られている。マリアの両手の場所が異なる。つながりは強くなるが、コンセプトの見方が見えにくくなる。・・意図的なものを消そうとしている。死に対する思いは別の点で表現・・・キリストの顔の表情をきつくした。キリスト自身の気持ちで受難のコンセプトを表現した。
マリアとキリストのつながりがより親密により自然に見える。・・マリアの足の間にキリストを立たせて足と足を重ねて強さを表現している。
- フォリーニョの聖母子 1511-1512 ピナコテカ ヴァチカン
- The Madonna of Foligno 1511-12
- Oil on canvas, 320 x 194 cm Pinacoteca, Vatican
新しい空間表現と人物像への試みがある。雲の中に天使が居る。オレンジ色の光の円形玉座、登場人物によって作られる創造的な空間である。
背景には、砲弾が打ち込まれているフォリーニョの街が描かれている。マリアに街が助けられ被害は無かった。洗礼者ヨハネ、ヒエロニムスとそれに伴われる寄進者シジスモンド・デ・コンテである。
ラファエロの革新のポイント
- 奥行きのあるリアルな空間を作ろうとしていない、下から上に上昇する方向性を強調しようとする。
- 人物表現が、ダイナミックな動きを強調している。
- 光の使い方 主役の背後から来る強い光は、演出された神の光として見るものに強い印象を残す。
(創造的な空間と現実空間の共存は、ラファエロが1512年以降ローマで工夫を重ねてゆくが、この絵ではまだ変化は過渡的といえる)
- シストの聖母 1513-14 ドレスデン
- The Sistine Madonna 1513-14
- Oil on canvas, 270 x 201 cm Gemäldegalerie, Dresden
ドレスデン市の美術館にあるが、元元は北イタリアのピアチェンツァにあるシスト修道院のユリウス2世のお墓を飾るために描かれたといわれている。
その後、神聖ローマ皇帝アウグスツス3世に町が占領された折に皇帝に寄贈されてドレスデンに移った。第2次世界大戦後モスクワに持って行かれたが、後に返却されて今はドレスデンイにある。
聖母に描かれた女性の肖像画としての魅力的な表情が世界中からの鑑賞者を魅惑している。 また下に描かれた二人の天使達が、それだけで一人歩きして、世界中に知られるようになっている。
雲に乗って天(空想の世界)から地上(現実の世界)に降りてくる聖母子を、左の聖シスト(この時代の少し前のローマ教皇でユリウス2世と同じ門閥)と右の聖バーバラ(光の守聖人)が地上(現実の見る人のいる側)の世界に誘う。
重々しいカーテンが両側に開かれて聖母の登場を劇場的な雰囲気に造っている。聖母の後から手前に向って光が差し込んでいて、この効果と(現実の世界とは違った)重力から解放され下から上へと向う浮力の効果が、見るものに無意識のうちに幻想の世界を感じさせる。
絵の下部には地上の世界と天井の世界を分ける手すりが描かれており、その手すりに二人の天使がもたれて居て二つの世界を橋渡しする。
手すりの左端にカソリック教会の最高位ローマ教皇の被る三重冠が置かれ、この橋渡しを司るのが教皇であることを表す。
ルネサンスは写実が進んだ時代だが、ラファエロはその頂点にいる画家である。写実の頂点に達したラファエロは、人間が空想する世界もまた一つの写実であると考えた。この絵はそれを表現した代表的な作品である。
- 椅子の聖母 1514 パラティナ美術館 フィレンツェ
- Madonna della Seggiola (Sedia)/(framed) 1514
- Oil on wood, diameter 71 cm Galleria Palatina (Palazzo Pitti), Florence
ラファエロは、この絵をヴァチカンのエリオドロスの間の装飾を終えた直後に描いた。18世紀末にナポレオンがパリに運んだあと1815にフィレンツェに戻されたという曰くがある。トンドそのものは15世紀末にフィレンツェでよく使われたものだが、ラファエロはこのトンドの円形の空間に不自然さがなく登場人物を配置して彼の柔軟な対応力を示している。窮屈な空間をむしろ人物間の親密性を高めるためにうまく活かしている。
後期・ルネサンス
カラヴァッジョの新たな写実
ロレートの聖母 サンタゴステーノ聖堂カヴァレッチ礼拝堂 ローマ
- Madonna di Loreto 1603-05
- Oil on canvas, 260 x 150 cm Sant’Agostino, Rome
「主題のこと」
アドレア海に面する一都市でアンコナに近い。北から下がるとリミニを過ぎてアンコナの南にロレートはある。伝説によると13世紀の終わり1291あるいは1304年にサラセン人が十字軍を追ってナザレを攻撃した。ナザレはマリアが受胎告知を受けた家があるところ。マリアの家が壊されそうになったとき天使がマリアの家をダルマティアに移し、更にロレートに移した。ロレートは信者の巡礼地となり、サンタ・カーサ(Santa casa di Nazareth)と呼ばれる聖堂があった。
同主題の他の画家の作品
アンニバレ・カラッチ 天使が家を運んでいる図
ルカ・シニョレッリ、ピエロ・デッラ・フランチェスカも同主題を描いた。カラヴァッジョは、カラッチなどそれまでの絵とは違う表現で描いた。
カラヴァッジョの新しい写実表現(マニエリスムからの回帰)
サンタ・カーサの入り口で聖母子が巡礼者を温かく迎えている様子を描いた。従来のような空想的なイメージは使わなかった。依頼者のことをよく考えながら描いた。巡礼者たちはロレートに着くとまずサンタ・カーサを3度周回した。それから入り口に跪いてその姿勢のまますり足で中に入ったといわれる。カーサの中には聖母子像が置かれていて、巡礼者はそれを拝み、大きな感動に包まれたたという。カラヴァッジョは、サンタ・カーサに行ったと言う説がある。トレンティーノに居たという記録がある。(In the winter of 1603-4 Caravaggio had been in Tolentino)ロレートから近い所である。巡礼者の様子を観察して知っていたと思われる。サンタ・カーサの玄関の左端がかけている。それもリアルに表現している。
マリアの表現が誠にリアルである。恋人であった娼婦レーナをモデルにしたといわれる。
巡礼者は、比較的若い男と年老いた婦人(依頼者の母親か?)登場人物を対角線上に配置し、背景には建築モチーフが描かれており、バックの処理はチェラージの作品とは違えている。したがって前にせり出てくる印象は薄らいでいる。 すなわちリアリズムに徹して描かれた。
ローマにやってくる巡礼者の立場に立ったリアリズムに基本を置いた。カラヴァッジョの主眼は二人の巡礼者に置かれている。カラヴァッジョはロレートの巡礼者を良く観察した上でローマに帰り、更にローマの巡礼者をよく観察した。その上で「ロレートの聖母」は描かれた。マリアの顔を傾けて首筋を見せた人体造形は実にリアルで、説得力がある女性像になっている。
Madonna del Rosario c. 1607
Oil on canvas, 365 x 250 cm Kunsthistorisches Museum, Vienna
ナポリへ逃亡中の作品 安定感のしっかりした美しい絵
図像の説明
中央に居る聖母子が主役、聖母は右に居る(見る側からは左)ドメニコを見ている。キリストは正面、見るものの方を真っ直ぐ見ている。信者がキリストに祈りを捧げる回数を数えるために糸に玉を通した紐を使った。ロザリオである。これをドメニコが(13c)考案した。ロザリオを考案した功績をたたえる絵である。白と黒のマンとはドメニコ会の修道士の服。右の修道士は頭から血を流している。ドメニコの最も信頼するピエトロ修道士。寄付を募る役割を果たしていたら、刺殺を送られ殺される。左は依頼者か。何を意味するかはよくは分らない。当時、対抗宗教改革のために生まれたイエズス会(新興)とドメニコ会は対抗していた。イエズス会の主旨は善行によって救われる。ドメニコ会は一人ひとりの 信仰こそ大切。ドメニコ会の正当性を訴える絵か?
ドメニコと彼が手にもつロザリオ、それに手を差し伸べる信者たちがドメニコ会を表現する。
大勢の登場人物のまとまりが良くなっている。
絵の底辺から聖母の頭部頂点までを三層にして組み立てられている。底辺から信者たちの頭部までが第一層、さらにドメニコやピエトロの頭部までが第二層、そして聖母の頭部までが第三層、その上を入れると4層である
夫々の層で人物は、跪いて、立って、台の上に座って三層を構成している。
レオナルドのピラミッド構図(三角構図)を採ることによって安定したどっしりした印象の絵になっている。「マリアの死」とも比較すると理解しやすい。
マリアを頂点とする三角形、ドメニコを頂点とする三角形、ピエトロを頂点とする三角形の三つの三角形が調和している。
この絵から登場人物たちの「絆」が安定している印象を受けるのは、三つのピラミッド構図が巧く調和しているからであろう。
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